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東京高等裁判所 昭和22年(れ)997号 判決 1947年11月18日

上告人 被告人 笠原習

辯護人 大園時喜

檢察官 宮本増藏關與

主文

本件上告はこれを棄却する。

理由

辯護人大園時喜の上告論旨第一、二點は末尾添附の上告趣意書記載のとおりであつて、これに對して當裁判所は次の如く判斷する。

第一點原審において辯護人が所論の如き主張をしたことは記録によつて明かであるが、ある犯罪を犯した者が大赦令によつて赦免せらるるものであるとの主張はその犯罪について公訴權が消滅することを主張するに外ならず、かかる訴訟條件の存否に關する主張は刑事訴訟法第三百六十條第二項にいわゆる刑の減免の原由たる事實上の主張に該當しないと解するのが相當である。従つて原判決がこれに對して特に判斷を示さなかつたのは何等違法の點なく論旨は理由がない。

第二點新舊兩法施行の前後に互つて行はれた連續一罪をなす各個の事實については、その全部に對し新法を適用處斷すべきが連續犯の性質上當然であるといはなければならぬ。而して物價統制令はその第四十條に規定する場合を除いて、昭和二十二年三月三日から價格等統制令の廢止と同時にこれに代つて施行せられたものであるところ被告人は昭和二十一年一月上旬から同年四月上旬までの間に犯意を継續して原判示の如き犯行を敢へてしたものであるから、その全部に對して物價統制令を以て處斷すべきものであることは前示の説明によつて明である。

所論大赦令には物價統制令違反の罪を犯した者を赦免する規定はないのであるから、すでに被告人の犯行全部を同令違反をもつて目すべき以上、その犯罪の一部が價格等統制令施行當時に行われたものであつてもこの部分のみについて赦免の効果の生ずるものでないこともまた自ら明瞭であり原判決には所論の如き違法なく、論旨は理由がない。

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 小泉英一 判事 今谷健一 判事 深井正男 判事 大野美稲)

上告趣意書

上告理由第一點 原審判決は被告人の辯護人が主張した法律上の重要な爭點に就き判決に示すべき判斷を遺脱せられた不當の判決である。即ち被告人の辯護人は昭和二十二年二月十日付上申書及び原審公判における辯護に於て昭和二十一年十一月三日新憲法發布の際發令せられた大赦令に依り本件犯罪事實中國家總動員法、價格統制令違反の罪責は大赦せられ罪刑共に消滅したものであるから免訴の御判決あるべきものであると主張したものであります。

原審裁判所は原審公判に於て辯護人が主張した法律上の重要な爭點に付ては判決に於て其の判斷を示さるべきものであるにも拘はらず其の判斷を遺脱せられて被告人は(1) 昭和二十一年一月上旬から今年四月上旬迄の間に前後五囘に互つて肩書自宅で藤森義夫からいずれもゴム統制会の定めた規格に合格した自転車タイヤー三百五十本及びチユーブ六百七十六本を昭和二十年商工省工務局第一二四九號通牒によつて許可された最高販賣價格を合計十六萬七千九百二十八圓を超過する代金十七萬九千圓で買受け(2) 同年一月上旬から同年四月初旬迄の間に前後數囘に互つて前記被告人自宅等で船橋幸三郎外六名に對して前記(1) の買受物件中、チユーブ十本を除いて其の他を前記最高販賣價格を合計約二十六萬九千七百七十八圓六十銭を超過する代金合計約二十八萬七百七十二圓八十銭で賣渡したものであると認定せられ被告人を懲役二年(但し執行猶豫五年)罰金拾万圓に處せられたものであります。

同第二點 原審裁判所は原審辯護人の免訴の判決請求に對して判決に於て其の判斷を遺脱せられたに止まらず國家總動員法、價格統制令違反の事實に付ても物價統制令違反の犯罪事實と合一して被告人を處罰せられたのでありまして到底破毀を免れざる不當の判決であると信ずるものであります。即ち(1) 犯罪事實が舊法時と新法時に跨る連續犯、長期に跨る連續犯に於て其の一部に付き公訴時效完成した場合の如きは其の犯罪事實の全部に付き處罰すべきは當然でありますが(2) 本件の如く舊法時と新法時とに跨り而かも舊法時の犯罪事實に付き大赦せられたときは其の大赦せられた犯罪は罪刑共に消滅するを以つて右(1) の場合と異り新舊法兩時の犯罪を連續一罪として處罰すべきものではなく大赦せられた犯罪に付ては免訴の判決を爲し新法時の犯罪換言すれば物價等統制令違反の犯罪のみに付いて處罰すべきものであると信ずるものであります。

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